中川村は、なぜ返礼品でふるさと納税を募集しないか

2017 04.30

 今朝の信濃毎日新聞一面トップ記事は、ふるさと納税に関してだった。返礼品競争の過熱にブレーキをかける総務省の通達と、それに対する長野県内市町村の戸惑いが報じられいた。
 中川村は、返礼品競争には参加していない。ふるさと納税を下さった方には、金額にかかわらず、村の広報誌を一年間送り、村の絵葉書やパンフレット、「日本で最も美しい村」連合のガイドブックを贈呈している。
 最近は少なくなったが、一時は村内でも「返礼品で村内産品生産者の売り上げに貢献し、村への寄付をたくさん集めるべきだ」との声はあった。
 一月に、移住を検討しているという方から、「なぜ返礼品によるふるさと納税募集をしないのか、財政は大丈夫なのか」というメールを頂き、以下のような返事を返した。
 中川村HP「村長の部屋」>「村長への手紙」に掲載しているが、村長交代が近いし、ふるさと納税が話題になっているので、こちらにも掲載しておく。

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前略

 メールを下さり、有り難うございます。

 ふるさと納税については、これまでも議会他で話題になりましたが、多くの自治体が積極的に取り組み成果を競っておられる中、私の考えをはっきりと申し上げると批判とも受け止められかねず、やや奥歯にものの挟まったような言い方に留めておりました。しかし、それではなかなか真意が伝わらないようなので、最近はもう少し踏み込んで説明するようにしています。
 せっかくご質問を頂いたので、今回もそのようにいたしますが、なんであれ物事には様々な考え方がありますので、以下についても他の市町村の考えを否定するものではないことは御理解下さい。

 まず、本来のふるさと納税の考え方には賛成です。就労前と定年後はふるさとに暮らすけれど、働いて所得を得て納税する期間は都会に住むという方が多い中、ふるさとなり頑張っている自治体を支援してもらえるのは、大変ありがたいことです。
 中川村でも、ふるさと納税を頂いた方には、金額にかかわらず一律に、村の毎月の広報誌を一年間お送りし、村のパンフレットや絵はがき、村が加盟する「日本で最も美しい村」連合のガイドブックをお送りしています。また、これはふるさと納税に限りませんが、10万円を超える寄付には、夏の「どんちゃん祭り」の会場で使って貰える金券をお礼としています。

 ところが、ふるさと納税制度の取り組みの中には、本来の趣旨からはずれ、返礼品によってお金を集める仕組みに変質しているものが目につきます。ここには三つの問題があります。

 第一に、変質したふるさと納税制度は、ある程度の所得のある人たちだけが享受できる節税制度であり、自治体の税収をトータルでは毀損するという点です。
 A自治体に支払うべき税金の10万円をB自治体に振り向けて、4万円の商品を貰った人は、4万円の節税ができたことになります。一方、A、Bふたつの自治体トータルでは、同額の税収が減ってしまった訳です。こんなことを自治体が競い合ってやりだせば、地方の税収は減少し、ふるさと納税の本来の目的とは真逆の結果をもたらします。
 そして、この制度のうまみを享受できるのは、まとまった納税額がある層だけですから、不公平な制度でもあります。

 二つ目に、村の特産品の宣伝に必ずしもつながらない危険がある、という点です。
 中川村の特産品は、りんごをはじめとする果物ですが、農作物は、毎年の自然条件によって、質についても量についても、さまざま影響を受けます。雹が降ったり、害虫が発生したり、いろいろな事態に直面しつつ、農家は一所懸命によい作物を作っています。そして、様々な自然条件による出来不出来があることを理解した上で、毎年買って下さる大切なお客様がいます。一番よい品は、贈答用として、このようなお客様に第一優先で届けられています。
 もし、天候に恵まれず、収穫が少なかったり、色づきが悪かったりした場合でも、ふるさと納税の返礼品として約束していれば送らねばならず、量を確保するなら胸を張れる質でないものも加えねばなりません。ふるさと納税で返礼品を期待する人の多くは、農業の苦労を知らず、うまく得をしようとする人ほど要求は厳しいものです。少しでも不満があれば、「中川村の**はひどい」と吹聴しかねません。こうなってしまうと、手間をかけて逆宣伝をしているようなものです。丹精込めていいものをつくってきた努力が水の泡になりかねません。

 最後に、本来の商売の王道である、良いお客様と尊敬し合える関係をつくりあげて息の長いおつきあいをしようという努力が、脇に追いやられかねないという弊害です。
 ふるさと納税の返礼として村が買い上げれば、農家にとってはそこで目先の売り上げにはなります。しかし、それでよしとすれば、お客様のことを考えて、喜んで貰える商品・サービスを提供しようという意欲が減退します。
 中川村は小さい村ですし、農家はそれぞれの考えで様々な作物を作っています。つまり、多品種少量生産です。大手流通に対して価格交渉力のある商売はできません。そのかわり、多様な魅力を提供することができます。さらに、新鮮な農作物だけでなく、加工品や飲食の提供、村で過ごす時間など、いわゆる農業の6次産業化によっていろいろな楽しみを提供できるのではないかと思います。一軒の農家だけでなく、多くの農家が、そして農家でない村民も、みんなで様々な魅力を発揮すれば、知名度は低くても、コアな中川村ファンを作れるのではないか思います。そのためには、お客様としっかりしたつながりを地道に築いていくことが必要です。
 商売の基本は、お客様に評価され喜んで買ってもらえる商品サービスを提供し、評価して買って下さることに感謝することです。買って下さる方と互いに感謝しあい尊敬しあえる関係を築き上げることが商売の王道です。変質したふるさと納税によって目先の利益に走り、これがおろそかになるなら、ふるさと納税制度が廃止された時、しっぺ返しを食らうことになります。
 ふるさと納税制度を都会の人たちと縁を結ぶきっかけにすることはあり得るとは思いますが、きっかけだけのためには、上に述べたとおり、弊害が大きいと感じます。副作用の少ない利用方法を考えてはみましたが、まだいいアイデアは思い浮かびません。現状のやり方でふるさと納税を下さる方々は、純粋に中川村を応援して下さっているのですから、このご縁は大切にしていきたいと思います。

 以上がふるさと納税制度に対する考えです。

 次に、中川村の財政状況、将来負担などについてご説明します。

 中川村の財政状況は、大変健全です。
 まず、実質公債費比率で申し上げると、平成17年度に17.7だったものが、平成26年度には4.6に改善しています。長野県上伊那地方事務所のサイトで確認すると、26年度の県下市町村平均は7.2で、同事務所管内の平均は10.6です。中川村は管内8市町村で最もよい数値となっています。平成27年度は、さらに改善して3.3になりました。(管内は単純平均、県平均は加重平均)
将来負担比率については、平成19年度に算出が始まった際の中川村の数値は67.6でしたが、毎年改善を続け、平成24年度以降は「数値なし」(将来負担額が負)となっています。平成26年度の上伊那地方事務所管内平均は56.3、県平均は11.2です。
 自主財源が少ないのは確かですが、効率のよい財政運営に努めた結果、中川村は、上のとおり健全化を進めることができたと自負しております。返礼品によってふるさと納税を集めなくても、心配せねばならない状況ではありません。
 市町村の財政状況については、総務省や県のサイトで比較できますので、ご覧になって下さい。

 移り住んで頂くための施策としては、村営住宅のさらなる増設と、地区の担い手として住んでいただくための住宅分譲地の計画を進めています。また、子育て世帯の住宅取得に対する支援、新たにお店を開く際の支援や新規就農の支援制度などもあります。##さんがどういう暮らしを考えておられるのか分かりませんが、他にもいろいろなメニューがありますので、なにか計画やイメージがあれば、中川村役場の振興課にご相談下さい。
 中川村には、若い工芸作家や芸術家が多く、またフランチャイズではない、店主のこだわりが感じられる個性的なお店も少しずつ増えています。新規就農の若者もいます。
 是非中川村で暮らしていただき、地区の皆さんとお祭りをしたり、共同作業で汗を流した後慰労会で一杯飲んだり、気の合う仲間とスポーツや音楽を楽しんだり、充実した毎日を楽しんでいただけたら、と思います。私自身、家族とともにIターンでやってきましたが、個性的な魅力のある方が多く、それが一番の村の自慢です。

 どうぞお気軽にお立寄り下さい。お待ちしております。
                                  草々

##様
          2017年2月1日               中川村長 曽我逸郎