この春採用の職員に訓話?をした。
私は5月に村長を辞するので、それ以降も活躍してもらいたいという気持ちがあり、行政の仕事についての総括のような話になった。
原稿を用意せず話したので、下のとおりではないが、言葉を補い、修正を加え、言いたかったことを文章にしてここに掲載する。
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おはようございます。
皆さんが中川村役場の仲間に加わって下さり、中川村民のために働いて頂けること、大変ありがたく、心強く感じています。
皆さんの中には、民間企業に務めた経験のある方もおられるし、私も村長になる前は、民間で働いていました。
行政の仕事と民間の仕事の間には、大きな違いがあります。民間の場合は、自分たちで儲けたお金や株主からのお金、大きく捉えれば、自分たちのお金を使って、それ以上の売り上げを上げるというのが目的です。社会貢献というようなこともいわれますが、日々の業務の中では、利益につながるかどうかを判断の基準にすればいい。比較的単純です。
一方、行政が使うのは、自分たちのお金ではありません。税金です。行政の仕事は公平でなければならないし、決められた手続き、ルールに則って進めていかねばなりません。長期計画に基づき、予算を建て、議会の承認を受け、公平公正に事業を実施していく。たまたま知り合った人が頑張っているからといって、便宜を図るというわけにはいかないのです。今、森友学園について報道されているような便宜供与があってはなりません。
しかし、計画に則って、規則やルールに従ってさえいればいいのかというと、それも違います。極端な例を挙げると、皆さんはアイヒマンという人を知っていますか。(一同知らない様子。)アイヒマンはユダヤ人を収容所に移送する計画の責任者で、ホロコーストの重要な部分を担ったわけですが、捕らえてみると、どれほど残忍な人物かと思っていたのに、とても凡庸な人物で、そのことがかえって世の中にショックを与えました。自分で深く考えることをせず、与えられた仕事を粛々と効率よく実行していった結果、大勢の人を残酷な死に追い込んだのです。
つまり、ただ与えられた仕事をルールのとおりにこなしていけばいいということではないのです。私たちの仕事は、一体何のためなのか、それを考えながら日々の業務に取り組んで欲しいと思います。
行政の仕事の目的は、民間の仕事より複雑です。自分たちのお金ではなく、なにごとも税金を使って行うのですから、公平性、納得性が必要です。住民ニーズも考え方も、人によって様々ですから、それらをどう調整すればいいのか。これから仕事に取り組む中で、判断に悩むことはしょっちゅう起こります。
私自身はどうしてきたかというと、判断に悩んだ時は、長期的な住民利益につながるのはどの選択肢か、と考えてきました。住民利益と言っても、勿論、特定の誰かに儲けさせることではありません。長期的住民利益とは、もう少し突き詰めて考えると、一人ひとりの村民が、自分の夢や計画や幸せの実現に思う存分取り組めるように環境を整えることだと思っています。ゴミの収集・処分も、上下水道も、道路や水路の整備も、防災も、教育も、福祉も、保健衛生も、産業振興も、その他役場の仕事はすべてその一環であり、その結果整えられた環境で住民の皆さんが伸び伸びと活躍して下されば、それが村の発展でもあります。ただ、これは、私が悩みながら考えついた個人的な判断基準なので、うまく機能するか、これからの実地の取り組みの中で検証して頂きたいと思います。
さて、役場の仕事は、自分勝手な判断で進めてはいけないこと、公平公正に、計画や予算に従い、ルールに則って実施されねばならないこと。しかし、行政の仕事は複雑で、現実には難しい判断を迫られる場合が多々あり、その際には、住民の長期的利益を判断基準にすべきことを述べました。
しかし、実は、それだけではまだ不十分なのです。対処できていない課題はないのか。計画や予算では救済されない住民ニーズはどうするのか。今の中川村役場にしても、まったく完全ではありません。さらに、今後、様々な社会情勢、経済情勢の変化があるでしょう。役場自体も、IT技術や国の制度改変など様々な影響を蒙ります。当然ながら計画や制度、ルールは、それらに対応して変化していかねばなりません。計画や制度、ルールが対応できてない問題については、自分の判断で勝手に対処するのではなく、役場の中で共有して、新たな条例、制度をつくるなり、計画や制度、ルールを公式にあらためるべきです。その時の判断にも、住民の長期的利益につながるか、村民の存分な活躍のための環境を整えられているか、という基準は、役に立つはずです。
ややこしいことを申し上げました。行政の仕事は、単純にこうすればよいと割り切れるものではありません。私自身は、5月で役場を離れるので、皆さんと長くいっしょに仕事ができないのは残念ですが、問題意識を持ち、悩みながら仕事に取り組んで頂きたいと願います。皆さんの元気な活躍を期待します。