TPP反対訴訟と遺伝子組み換え作物について

2017 06.12

先日(2017年6月7日)「TPP締結差止・違憲確認訴訟」の判決傍聴(@東京地裁)と『TPP交渉差止・違憲訴訟の会』総会に行ってきた。(同会HP:http://tpphantai.com/

判決は、「行政権の行使は民事訴訟の対象にならない」とか「TPP協定はまだ発効していないから、具体的な権利や利益は侵害されていない」といった形式論による門前払いで、TPPの内実について議論することから逃げており、「憲法の番人」としての司法の自覚に欠けるものだった。
裁判傍聴後の総会では、抗議声明が出され、控訴すること、行政訴訟も行うことが決議された。

また総会では、水道民営化に道を開く水道法改定や主要農作物種子法の廃止が、TPPに向けた先取りではないかと危惧され、特に後者に関連して、「日本の種子(たね)を守る有志の会」の印鑰智哉(いんやくともや)氏の講演があり、グローバル化学企業の遺伝子組み換え技術による農業支配の危険についてよく理解できた。その概略は以下の通り(文責:曽我)。

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 グローバル化学企業は、戦争に爆薬や生物兵器(枯葉剤など)を売り込んで大きくなり、その技術を化学肥料や農薬に転用して農業に参入した。70年代、遺伝子操作された細菌が発明物として特許を認められた。それ以降、GATT-WTO TRIPS条約やUPOV1991条約によって、遺伝子組み換え(GM)で作られた作物の排他的権利が認められるようになった。これらの条約を批准した国は独自個別の基準で遺伝子組み換え作物(GMO)を規制することはできないし、遺伝子操作の情報開示を義務付けることは禁止され、遺伝子組み換えの特許のルールは米国に準ずることになる。TPPに参加すると、UPOV条約を批准せねばならない。

本来、農家は自分らの種を持っており、自分の作物から種子をとり、保存し、交換し、共有してきた。これを制限し、大企業が独占する種子を毎年農家に買わせようとする上記の条約や法律の動きに、特に南米で激しい反対が起こり、「モンサント法」はコロンビアやグアテマラなどで撤回に追い込まれた。また、欧州のみならず北米でもGMOの危険性への不安が消費者に広がっており、GMOの普及は一時の勢いを失っている。(曽我補筆:除草剤耐性を与えられたGMOは、除草剤をじゃぶじゃぶとかけられ、他の植物が全くはえない裸地の圃場で育成される。殺虫毒素を組み込んだGMOでは、毒素は人間には吸収されないとされているが、カナダでの調査では妊婦や胎児の血液中から高い頻度で検出されている。家畜に与えたGMO飼料の毒素が肉や牛乳、卵などを経由して人体に入ったと考えられる。)

一方、日本は、イネ、麦、大豆の良質の種子を都道府県が管理することを定めた「主要農作物種子法」を、民間企業の品種開発や種子供給ビジネスへの意欲を阻害しているという理由で、来年4月に廃止する。これは、TPP(またはそれに代わって、グローバル企業による種子利権寡占体制に道を開く新条約)への下準備であると考えざるを得ない。

一般に、GMは生産性の向上をもたらすと考えられがちだが、現実はそうではない。ブラジルでの大豆生産の事例をみると、収穫高、利益ともに遺伝子組み換えでない方(Non GM)が高い。しかも、Non GMが年々着実に生産性を上げているのに対して、GMでは生産性の向上が見られない。

また、最近では、植物のみならず、動物でもGMが広がりつつあるし、GMのさらに上をいく合成生物(人工的に一から塩基配列を設計されたDNAによって自己増殖する生命体)の研究も進んでいる。これらが環境に漏れ出した場合、生態系にどのような影響をもたらすのか、非常に心配されるが、規制対象にはなっていない。

地球温暖化対策として、二酸化炭素排出規制や森林保全が叫ばれているが、二酸化炭素の吸収は、植物それ自体よりも植物の働きによって土壌に吸収される方がはるかに多い。植物は、二酸化炭素を光合成で炭水化物にして根から土壌に供給している。そこに土中の微生物が集まり、植物にミネラルをもたらす共生が行われている。ところが、化学肥料や農薬は、この、植物と土中微生物の相互依存の共生を止めてしまう。植物は、このような共生する善玉微生物に守られ悪玉微生物の害を防いでいる。微生物との共生を絶たれた植物は、化学肥料や農薬にますます依存せざるを得なくなり、大地は生命を育む力をどんどん失っていく。生命は大きな環境、生態系の中で複雑に依存しあって生きているのに、その一部だけを見て対症療法的な処置をすると思いがけない事態を招く。

日本では、GMOの商業栽培は今のところ行われていないが、承認されたGMOの数はとびぬけて多い。もし商業栽培が始まれば、一気に広がりかねない。また、食料自給率が低く、輸入食料、輸入飼料に依存し、加工食品の原料もほとんど輸入によっている日本であるのに、GM表示の基準が緩く、既に知らないうちに諸外国より多くのGMOを直接間接に摂取していると予想される。

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 印鑰さんの話を聞いて思ったことも書いておこう。

GMOが健康に及ぼす危険については、意識の高い消費者の間には広がりつつあるが、一般にはあまり知られていない。その理由のひとつは、国際機関や各国政府がすでにこれに関わるグローバル企業に取り込まれているからだろう。商業マスコミも、商売上の配慮なのか、突っ込んだ報道はしない。

GMOの危険は、健康への直接の影響に留まらない。世界各地、その土地その土地の自然、歴史、文化、風土に培われ、引き継がれてきた農作物の多様性が奪われるという危険だ。農家は、慣れ親しんだ品種を慣れ親しんだやり方で育てることができなくなる。それは、条約や法律を使ってそうされるだけではなく、例えば、除草剤耐性GMO圃場が広がり、大量に散布されそこから流れ出した除草剤で環境が破壊され、従来作物が作れなくなるということもある。その結果、GMOを栽培せざるを得ないことになれば、農家は毎年、特許に守られた高額の種子を買わなければならない。

TPPの最大の問題は、ISD条項に見られるように、各国の主権、自治が奪われることであるが、GMOについてもそのとおりで、受け継がれてきた文化、風土まで破壊される。

しかしながら、農山村の実情を鑑みれば、高齢化・担い手不足で疲弊し、TPPやGMO以前に、除草剤・殺菌剤などの農薬、化学肥料に頼らないとやっていけない悪循環に既に陥っている。

大きな自然の生態系に生かされた本来の農業に戻るにはどうすればいいのか。
荒れる農地を荒廃化にまかせて、一旦自然に戻し、改めて開墾すればいいのか。いや、そういうわけにはいかない。それは、農地のみならず農山村の暮らしそのものを荒廃させ、伝統・文化を終わらせることだ。
とはいえ、農薬や化学肥料を絶ち、微生物が増えて土の力が回復するのを待つには、数年の時間を要する。一挙にではなく、自然に配慮した圃場の割合をだんだんと増やしてしていくにせよ、その間の農家の経営を保障せねばならない。現状でさえほとんど成り立っていないのだ。
農業の生産性をあげるとか、儲かる農業にするとか、ましてや、輸出競争力のある作物をつくるとかではなく、農山村に暮らし、地域の共同体とともに農地を守り、農地を育むというだけの条件で、農山村で生存することへの支援をする他はないのではないか。

今回は、GMにからんで、農業と食と農村の健全な保全について考えた。しかし、TPPは、それらにとどまらず、大変幅広い分野で暮らしに大きなダメージをもたらす。
TPPは、人々の暮らしをグローバル企業に都合のいい様式に塗り固め、主体的で多様な生き方を奪おうとする。その反対に、個人の自由な主体的生き方を可能にするのがベーシック・インカム(BI)だ。BIは社会の在り方を根本から変えるので、副作用も大きいかもしれないが、検討する価値はある。農業を今の状態からあるべき姿に再生するには、それくらい抜本的な変革が必要だと思う。

2017年6月11日 曽我逸郎